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溢れるMGS愛:PHILOS-ANTHROPOS

MGS語りや小説、考察?落書きと、愛しかない一風変わったMGS日記(不定期)

 
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Category: 短編小説【もくじ】 >  幸福の記憶  

幸福の記憶:MGS小説、短編。

 



黒く姿を形作る針葉樹たちの向こう側、赤い朝焼けが空の下方を染めて、ゆっくりとせり上がって広がっている。

時間は午前10時を回ったところだ。アラスカは冬には日照時間が5、6時間ほどしかない。
そんな遅い日の出、懐かしい景色だった。その昔、ここで暮らしていた頃には、犬達とこの光景を見ていた。
それからその後、しばらくの間は、愛しい女とも。

あの頃の景色が一番美しかった。語り尽くせない輝きに満ちていた。
日に日に、メリルは何かを得るように美しくなったし、また、何か余分なものを脱ぎ捨てていくかのようにも見えた。
今でもあれ以上美しい女は見たことがない。
それくらい、綺麗だった。
当時は気付かなかったが、今思えば、もしかしたら自分が、彼女をそうさせていたのかもしれない。もしかしたら。
若い頃の自分が、今よりも素晴らしかったような、そんな気がしているだけなのかもしれないが。


「もうすぐ店に着くからね、サニー。スネークは?寝てるかい?」

雪道に車を走らせながら話すオタコンの声を受けて、サニーが助手席から後部座席をうかがってくる。面倒なので目を瞑って寝たふりをした。
報告の様子がないので目を開けて見てみると、サニーは運転席に向かって指を立て、静かにするようにジェスチャーをしているところだった。可愛いものだ。
ノーマッドにいた頃より、ごく普通の少女のように振る舞うようになってきて、なかなかに将来が楽しみだ、という気にさせられる。
残念ながら自分は見ることもないだろうが。
少し眺めてふとバックミラーに目をやると、こちらを確認しているオタコンと目が合った。
しまったと思った。確認するくらいなら始めから聞くんじゃない、と内心悪態をつく。

「…ああ、ほんとだ」

オタコンはミラーの中で目を細め、眉を上げると、そのままサニーの方に頭を倒し、小声で呟いた。

「じゃあ静かにしないとね」

ホッとしたような、居心地が悪いような気持ちになり、座席に寄りかかり直して、本当に寝てしまおうと目を閉じる。
どうもこの男にだけは、何でもかんでも見透かされているような気がしてならない。


オタコンがここに、あの頃暮らした家にまた住むと言い出した時は、思い出に埋もれるのが嫌で仕方なかった。
絶対に反対だった、そして反対した。
しかし奴の強情さには、正直敵わないのも事実だ。
あんなに適当かつ柔和そうに見える男なのに、意思の強さでは勝った気がしない。
いくらこちらが望みを通そうとしても、結局は受け入れてもらわない事にはどうしようもなかった。そして大抵の事はあっさり受け入れてもらえたのだが。

喫煙にしてもそうだ。
いくらやめろと言われても、そんな気は更々なかったので吸っていたが、オタコンも文句を言いながら、喫煙する上で譲歩するラインを作ってくれるようなところがあった。
それに従っていれば、文句はまあ、言われもしたが、煙草を取り上げられたりするような事もなかった。
だからアラスカへの移住も、本気で抵抗すればやめてもらえるかと思っていた。
だが意外にも、奴の方も本気で譲らなかった。そんなに思い入れのある土地なのかと驚く程には、本気で。
そうなるともう、自分が従うしかない。
納得いかないが、どういう訳か昔からそういう事になっているのだ。
どういう訳か。

そんな経緯でアラスカでの生活が再び始まってみると、やはりあの頃の事ばかりが思い出される。
初めのうちは、気が滅入るどころではなかった。とにかく毎日のように、今さらアラスカを満喫しようと連れ回された。
サニーには初めての土地だ、分からなくもないが、正直たまったものではない。足は動かない、体力も続かない、このまま起き上がれなくなるじゃないかと思った程だ。
こんな事は認めたくないが、しかしだ、年寄りを何だと思っているんだ、こいつらは。
そう思わずにはいられない日々だった。
お陰で落ち着いた今では、すっかりここの生活が当たり前という気がする。


目を瞑ってしばらく揺られていると、車が大きくカーブしたのが分かり、停止した。

「スネーク、起きて。着いたよー」

オタコンが後ろに顔を覗かせながら笑いかけてくる。
何とも言えない気持ちで、それを眺めた。

車から降りると、冷えた空気ですぐに耳が痛くなった。吐く息は真っ白で、長く外にいると、鼻に氷柱ができそうだ。
杖をついて足を進めると、オタコンはいつものように歩調を合わせて隣を歩き、先を行くサニーと会話した。
サニーは脇にそれ、まっさらな雪に足跡をつけるのを楽しみながら建物に向かっていく。
山の中腹にあるこの店は、町に行く途中にあって、昔よく世話になった場所だ。酒屋と飯屋と雑貨屋とが一緒くたになったような店で、とにかく何でも置いてある。
ログハウス風の見た目の、ポーチ部分で雪を落とし、ドアを開けると小さな鐘が来客を知らせた。

「いらっしゃい、ああ旦那がた」
「こんにちは。今日も寒いですねえ」
「今日は暖かい方ですよ」
「ほんとに?」

オタコンはいつも同じような会話をしながら店に入る。それを笑って迎えてくれる店の主人は、恰幅のいい年配の男で、愛想がいい。この辺りの情報は、この男に聞けば大抵の事が分かった。

「今日は待ってたんですよ。実はこいつがね…」

主人の指差した先にあるのは、年代物のレジスターだ。すぐにオタコンがカウンターに近寄っていく。
3人で初めて来た時に、ラジオを即席で修理して以来、こうして時折頼まれ事をしていた。

「どれどれ?うわまた年期入ってるなぁ、これ」
「親父の代からなもんで」
「ああ、これならサニーにも直せますよ。サニー、やってみたい?」
「え、冗談でしょう?」

声をかけられ、物珍しそうに店の品を眺めていたサニーが寄っていった。

「こんにちは」
「こんにちは、お嬢ちゃん」

テンポのずれた会話でも、主人は気にせず付き合ってくれる。しかし流石にレジの修理をを任せるのには不安があるようだ。
困ったようにオタコンの顔を覗いている。

「大丈夫、僕も見てますから。それに電卓だったらこの子も5分か10分くらいで直しますよ」
「へ?」

何だか気の毒になってきて、カウンターの反対の端の、いつもの席から声をかけた。

「大将、今日はいい酒でも入ってないのか?」
「え?ああ、ありますよ、旦那に取っといたのが。息子さん元気ですか?」
「ああ、まあ」
「あの頃はひいきにしてもらいましたからねぇ。嫁さんと上手くいってますかね?」
「どうだか分からん」

10年近くぶりに店に来た時には、主人は自分が誰だか分からないようだった。当然といえば当然だ、年を取りすぎている。
昔来ていた話をしたら、どうやら当時の自分の父親と勘違いされたようで、以来その息子の様子を聞いてくる。まさか本人が目の前にいるとは思うまい。
嫁というのは多分メリルの事だろう。気が沈みはしたが、面倒なので話を合わせていた。

「お酒かい?」

オタコンは少し可笑しそうに苦笑しながら、釘を刺すように声をかけてくる。

「いいだろう、一杯くらい」
「ほんとに一杯?」
「大将、ジョッキでくれ」
「…あれ、今何か言った?」

とたんにレジの方から冷たい声が聞こえる。煙草をやめたら楽しみは酒くらいのものだというのに、全くうるさいにも程がある。
自然と眉間にシワが寄った。

「ははは、旦那はそんな味のない飲み方はしませんよね、どうですこれ」

ボトルを見せながら笑い飛ばす主人に、オタコンは安心したように笑みを返す。
どいつもこいつも。

「じゃ、旦那、私もあやかっていいですか?」

そう言いながら主人はグラスを2つ出し、両方に酒をついだ。だが自分の記憶に間違いがなければ、この男は呑めないはずだ。
顔を上げると、相手が小さく片目を瞑るのが見えた。
成るほど客の扱いの上手い男だ。

自分はオタコンの父親くらいの見た目とはいえ、こうして毎回男二人で小さな少女を連れてきて、しかも今しがたのような会話がある。
一体この主人にはどんな風に思われているのかと思うと、どうにも微妙な気分になった。

「さ、さ、乾杯」
「ああ、…乾杯」

にこやかに自分の飲むであろう酒をかかげられ、グラスを合わせる。やはり相手は口を付けずに、グラスをカウンターに置いた。
相手のものとも、自分のものともとれる位置。主人はにこにこと、悪意のない笑顔だ。
それを見て、酒を口に含むと、微妙な気分も和らいだ。
オタコンといい、この主人といい、世の中こんな人間ばかりだったら平和だろうに。
そんな間抜けな事を考えながら飲む酒は、何だかやけに美味かった。


こうして、記憶が新しくなっていくのは、以前の思い出が上書きされるような気がするかと思っていた。
だが別にそんな事はなく、以前の記憶は以前のまま、鮮やかではないが美しく残っている。
テーブル席にメリルと座って食事を取ったりした事や、からかわれ、表で男どもをねじ伏せた事もあった。もちろん彼女が、だ。
のんきに中で待っていると、主人が心配そうにドアから覗きに行ったが、彼女は涼しい顔でそのドアから帰ってきて言った。

「相手が私だったから、あの程度の怪我で済んだのよ」

メリルは気分よく食事を再開したので、後から主人に治療費を渡して言ったものだ。

「今日の事で何か困ったら言ってくれ」

しかしその後は困った事も起きず、からかってきた相手も愛想よくなったので、店には変わらず世話になれた。
今思うと、治療費にしてはやや大盤振る舞いだったとも思うが。

そんな息子の思い出からか、主人は自分に良くしてくれる。正確には息子ではないが、もうこの際誰でもいい。
もちろんそれだけではなく、オタコンがすっかり店の修理工のようになっているのも大きな理由だろう。
善意や好意というものも連鎖するのだ。罪や憎しみ、悲しみばかりではなく。


そんな主人の振る舞いで2杯飲み、酒は美味く、気分は上向いて、上々だ。
レジは景気のいい音を立てて復活し、主人は目を丸くしながらサニーに礼を述べていた。
オタコンはひとしきり買い物を済ませ、飲んでいた酒のボトルをそのまま買おうとしたが、代金は受け取られず、返された。

「レジのお礼にどうぞ」

そう言われ、奴はグラスとこちらを交互に見ると、ほんの一瞬眉根を持ち上げたが、すぐに主人に笑いかけた。

「ありがとう、じゃあ遠慮なく。また何かあったら言ってくださいね」
「こちらこそ、毎度どうも」

そんなに安くはない酒だろうに、壊れかけたレジが直ることの方が、そしてまた自分達に来てもらう事の方が大事なのだ。

「じゃあ、大将、また来る」
「ええ、待ってますよ」

カウンターの中から見送られ、3人で外に出た。寒さに顔をしかめながら、足を引きずるように車まで歩く間も、胸はやけにあたたかだった。
酒のせいかもしれない。好意に触れたからかもしれない。

針葉樹の中、雪に埋もれて佇む大きくはない店で、ずっと客の来るのを、自分達を待っている、人のいい男がいる。
その事実が、自分を何ともいえない、いい気分にした。
人にはこんな、些細だけれども温もった善良さがある。
そんな事実が。


車に乗り込むと、オタコンは振り返って声をかけてくる。

「スネーク、大丈夫?」
「何がだ」
「…いや、うん、いいんだ」

多分2杯飲んだのがバレているのだろう。確かに、強い酒を飲むには年も年だ。
しかし気分がいいのがそのせいだとしても、それでも構わない。
とぼけてしまえばオタコンも、それ以上追求しないでいてくれる。いつもそうだ、文句は言っても責めはしないで、こうして言葉にしない場所で、やり取りがある。
だからいい。とぼけても、構わない。

なんの変鉄もない、普段通りの買い物が、今日はやけに素晴らしい事のようだった。
たとえ後から何か、この気分が台無しになるような事が起きたとしても、きっと大丈夫だという気がする。
善意や好意が、消えることはない。


この、まるで長い幸福の幕開けような、今日の記憶があれば。









 

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テーマ : 二次創作:小説    ジャンル : 小説・文学
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◆プロフィール

輝思回生

Author:輝思回生
MG、特にMGSシリーズをこよなく愛しています。
こそこそしたり、遠くから眠らせたり、後ろから忍び寄って脅してみたり、なんて私にぴったりなゲームなんだ!

とにかくオタコンびいきです。
オタコンならば何でもいいという!(笑)
そしてスネークおじいちゃんのお髭愛も!

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