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溢れるMGS愛:PHILOS-ANTHROPOS

MGS語りや小説、考察?落書きと、愛しかない一風変わったMGS日記(不定期)

 
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Category: 短編小説【もくじ】 >  鐘の音(カネノネ)  

鐘の音(カネノネ)-すべての人のための音-3:MGS小説。雷電とローズとの結婚式inアラスカ、完結

 
鐘の音(カネノネ)~すべての人のための音~【3】










人間の力は有限だ。
奇跡を起こすのは、誰か一人の力だけではない。たとえそう見えたとしても。
だから人は神に祈る。自分の信じるものを定め、それに己を委ねたりする。
そうすることで、無限へと近付くために。

「ねえ雷電、神様が僕だけに、何かしてくれると思うかい?それとも僕だけに、何もしてくれないとか」
「え?」

オタコンの言わんとしている事が分からず、雷電はその人工の瞳で、自分を見る男の、眼鏡の奥の瞳を捉えた。
常に少し閉じかけたような、眠そうな瞼の中で、夢を見ているような灰色の瞳が、光を反射している。

「神様は、全ての人に、全ての事をしてくれてるんだよ」

ごく真面目な顔でそう言われ、返答に困る。

「僕にも君にも、同じようにしてくれているんだ。スネークにも、みんなにもね。その結果を変えてるのは僕達の方さ。多分」
「つまり、何もしないのとどう違うんだ」
「してくれてるのとしてくれてないのじゃ、大違いだ。それに、可能性にも差が出るだろ。僕達が干渉できる範囲が、認識の仕方で変わるかもしれないよ」

話が飛躍しだして、理解の範疇を超えそうだと感じた雷電は困惑顔になり、半ば諦めぎみに、自分の考えを口にした。

「それでも事実は変わらないだろう」
「どうかな。この世界は観測によって電子構造が決定する。認識がなければ、物質的存在もないんだ。じゃあ逆はどうだろう」
「想像もつかない」

どうやら博士は科学者として、神の話をしているようだという事までは、何となく彼にも伝わった。
しかし、戦う事で命の在り方を物質的に捉え、拠り所としてきた青年には、それが同じ世界の話とは思えない。
オタコンは、相手のそんな様子が全く気にならないのか、変わらぬ調子で続ける。

「例えばだけど、GWが自我みたいなものを持ったように、神様にだってそういうものがあるかもしれないじゃないか。物凄く高次元な電気的集合体っていうか、意識的物質の集合体かもしれないし。まあ物質じゃないんだろうけど、この場合。摂理とか、システムそのものなのかも」
「つまり?」
「つまり、アクセスする側の心積もり一つってことさ」
「…分かったような、分からないような感じだ」
「実は僕も、何となくそんな気がするっていうレベルの話」

熱心に説明していた割には無責任な締めくくりをされ、雷電は思わず眉をしかめた。
理解できないこともそうだが、理解を求められていないことにも、うっすら腹が立つ。

「いいのか?それで」
「専門じゃないからねぇ、別にいいさ。他にやる事が山とあるし、これって今の時代に研究してどうにかなるとも思えないし」
「……」
「まぁ、信じるものは救われるって言うだろ」

無責任ともとれる言葉を口にしながら、オタコンは、まるで良いことでもあったかのように笑った。
その平然とした清々しさを目の当たりにして、微かな憤りはすぐに薄れていく。強張った眉や肩からも、力が抜けるのを感じた。
要するにこれは彼の中で、いつか解明される現実とかいうものなのだろう。

今になってやっと、スネークが、彼とは全く正反対の相棒と一緒にいたのがなぜなのか、分かるような気になる。
明確にではないが、何となく。
それでいいのかもしれない。

身を切るような現実ばかり、はっきりと突き詰めなくてはならない事ばかりだろうか、この世界は。
この博士といると、自分が赦されたような、そんな気になるのだ。




例えば生と死や、精神と魂のような、明確な切れ目のないものの繋がりの、あちらとこちら側。人間はそれに名前をつけ、分類し、理解しようとする。
けれども自分の在り方や立場、存在を明らかにすることが、それだけが、正しいことだろうか。
もう長いこと、この機械じみた肉体と、中途半端な生命に、何かしらの結論をもうけなければならない気がしていた。
でも、そうでなくてもいいのかもしれない。
そうでなくても自分の存在は、肯定されているのかもしれない。
もしかしたら。





キャンベルがやってくると、式までは間もなくだった。
彼が最初に向かったのはメリルの元だ。キッチンに足を踏み入れると、やや緊張した面持ちで声をかける。

「遅れてすまない」
「ああ全然、これからよ」

忙しくしていた背中が振り返ると、揺れる赤毛の次に、濃い色の緑の瞳がキャンベルの目に入った。
それが思っていたよりも穏やかで、伸ばしていた背筋の筋肉がやや緩む。
何かとややこしい経緯のあった親子関係のうえ、軍の特殊部隊勤めの娘とあっては、時間を作ってもなかなか会えないのが現状だ。再会のたびに落ち着かない。
軍の組織上では相当上の立場に位置していた事実も、こうなると全く無意味だった。

「ローズは二階にいるから、他にいないし、父親役やってあげて」
「…いいのか?」
「何よその顔。娘の余裕でしょ。ほら行って」

メリルは部下にするように軽く首で指示を出し、申し訳なさそうな顔になった父親を二階に送り出した。
廊下に出たキャンベルは少しばかり足を止め、小さく首を振って、それから笑みを隠すように咳払いすると、階段を上っていく。
娘の余裕、という言葉を、無言で噛み締めながら。

一方彼の娘はといえば、ケーキのセッティングから料理の支度、飲み物の用意、子供たちの面倒まで、自らもしくは隊員を使ってそつなくこなし、あらゆる準備も終盤に差し掛かっていた。
花嫁は式まで新郎に姿を見せないのがしきたりだ。ローズは二階から下りて来ず、雷電は二階に足を踏み入れていない。
それぞれの任務を完了し、全員がキッチンに集合すると、報告と作戦本番のブリーフィングとあいなる。

「音楽も準備完了」
「ありがとジョナサン。あとは本番ね。エドは牧師役、頼んだわ」
「任せてくれ」
「リハーサルはないけど内輪だからいいでしょう。主役の花嫁が感激してくれたら成功よ。いい?」

キッチンで隊長の号令が出ると、そこにいた全員が軽快に返事を返す。
食器棚に寄りかかって一部始終を眺めていたスネークも、一応、といった風情で声を出していた。少しは気分が乗ってきたようだ。
アキバが呑気な声で、満足そうな隊長の脇から声をかける。

「メリル、俺は?」
「ベスト・マンてわけにいかないからアッシャーね。私もブライズメイドでいいし、エスコートして」
「了解。よろしく雷電!」
「ああ、よろしく」

ブライズメイドは花嫁に寄り添ってお世話する女性で、アッシャーは花婿の付き添いだ。本来はベスト・マンという親友の役もあるが、該当する人物のいないポストは飛ばして、それぞれが自分に適当な役割に分担された。
形式も内容も友人すら即席なウェディング。とはいえ、少なくとも若くて見目よい男性が並ぶと、景観だけは華やかだ。

「残念、もうちょっと年齢がいってたら、ときめくんだけどなー」
「お前がときめいてどうするんだ」

メイ・リンが悩ましげに呟いていると、背後から珍しくスネークがちょっかいを出す。
彼女は、半分閉じた目を背後に向け、痛い目に遭わないよう警戒しながら反論を返した。

「いいじゃない。人の旦那だって素敵なものは素敵よ」
「そうか、不倫はどうかと思うが」

そもそも反論した時点で警戒しても無駄だということに、メイ・リンは気付かない。

「不倫なんかしないし!目の保養とお付き合いは別だもん」
「目の保養がなければありなのか、ほう」
「しーなーい!ったら!」
「どうだか」
「なぁに!もう」

ぷりぷりと怒るメイ・リンのチャイナドレスの脇では、リトル・ジョンとサニーが、腕を組んでエスコートの練習をしている。
微笑ましく賑やかな家の中の様子を眺め、オタコンは、満たされた感覚と、同時に名残惜しさを感じていた。
ずっとこの家が、こんな風だったらいいのに。
決して長くなくてでいい、スネークがいなくなるまででいいから。

そんなことを思って。




「じゃあ、移動しようか?」

もの思いで滅入りそうになる気分を奮い立たせ、家の主が極力明るく口にすると、それを合図に各員が、会場へと足を向け始める。
思い思いに移動する中、無言で歩を進める新郎の隣に、アキバが歩み寄った。
彼にしてみれば雷電は、最新技術のメカの塊な上、戦闘員としても一流で、憧れが正装して歩いているようなものだ。声をかけたくて仕方ないのだった。
その上新郎としては自分の方が先輩でもある。経験者としての余裕からか、生来のお調子者気質か、人懐こく俯きがちの銀髪を覗き込んだ。

「緊張してる?」
「いや…ああ。そうだな。戦場にいる方がましかもしれない」
「花嫁を見たら、感動で吹っ飛ぶよ」
「だといいが」

軽く背中を叩かれ、雷電は視線を相手に向ける。隣で親しげに笑う男の邪気のない笑顔を見ると、ふと不思議な思いに駆られた。
初対面の人間に親切にする時、人はどんな気持ちなんだろうか。
この男も、一度戦場に向かえば、敵を殺す軍人だ。
同じ人間というだけで、戦場で出会えば殺し合い、そうでなければ友人にもなれる。
不思議な生き物だ。人間とは。

「世話になるな」
「そんなの全然!究極までかいつまむと、スネークはメリルの恩人で、君はそのスネークの恩人だろ。つまり俺達の恩人みたいなもんだし」
「そういうもんか」
「そういうもんじゃないの?」

なぜだか嬉しそうに話され、向けられる笑顔を見れば、何のことはない、簡単なことだった。
命や、色々なものと変わらない、曖昧な、けれど途切れもしない繋がりの、あちらとこちら。
博士の顔が思い浮かび、そしてスネークの顔が浮かんだ。
ずっと背中を追い続けた男の向こうには、密やかに慎ましく身を潜め、しかし確かに存在してきた、愛しい女性の面影がある。
決して自分を諦めず、想い続けてくれた。
見捨てないでいてくれた。
いつも、待ってくれていた。


後ろめたさや罪悪感、義務、そういった全てを放棄して、投げ出してしまえば、そこにあるのはただの、想いだ。
ほんの小さな頃、まだ何も分からなかった幼さで、誰かを求めたように。
理由なんかない、漠然と、何となく、心の中にいる。
無視しても、ずっといる。

それがローズだった。

どんなに否定しても、どんな形にしろ、彼女は常に、自分を待ってくれていた。
この世界の、どこにいても。

自分が、どんな人間になろうと。




式の始まりの合図に、アーチに下がった鐘を神父が鳴らす。
祝福の鐘の音。

幸せを告げる金の音色が軽やかに響いて、湖を渡り、山々を登り、空へと抜けて行く。
心を揺さぶられるような響きだ。

参列してからようやくネクタイと格闘していたオタコンは、ふと、蝶結びを作る手を止めた。

「ああ、そうか…」
「どうした」

隣に座った相棒が、前を見たまま眉をひそめる。

「うん、僕達は鐘の音みたいなものかもしれない」
「何?」
「前から思ってたんだ。魂を音にしたらどんなだろうってね」

またどうやら明後日の話が始まったという風に、スネークは顔をしかめた。この男がこういう話をするのは、別に今に始まったことではない。
そしてそれはいつも唐突だ。

「その顔、雷電も似たような顔してた。君達ってつくづく似てると思うよ」
「奴にもそんな話をしたのか」
「うーんまぁ、神様の話をちょっとね」
「それは誰でも、こんな顔になると思うぞ」

憮然とした表情で言われ、オタコンは口を尖らせる。もっともだと分かっていても、彼にとっては素敵な思い付きだったのだ。

「いいかいスネーク、僕は何も文学的な話をしようっていうんじゃないんだ」
「それは分かってるが」
「分かってないよ、ほらその痛々しい顔。そもそも君ってやつは…」

独自の科学的根拠に基づいた小言を披露しようと文句を言いかけ、動きが止まる。視線の先にはキャンベルの腕に手を添えた、花嫁の姿があった。
午後の光をすべて集めて色にしたような、眩しい純白のドレス。
幸せになれるという、6月の花嫁だ。

参列者のため息の中、振り返った雷電には、ベールの奥のローズの瞳まで、はっきりと見ることができていた。

そこには、全てがあった。
長く長く待ち続けた、喜びと、悲しみ、痛みの記憶と、そして赦しと。

自分は受け入れられている。
なぜだか、そう分かった。
彼女となら、一緒に生きられる。
この女性にならば、この先どう生きようと、受け入れていってもらえる。

ローズになら。



少女が花びらを撒き、花嫁は花婿の元へ、その一歩を踏み出した。


明るく世界に響き渡る、鐘の音に導かれ。








人は、誰もが自分だけの鐘を持っている。
それは様々な音色で、小さな可愛らしい音だったり、やかましい騒音だったり。
心地いい音も、そうでない音も、すべての音色が混ざりあって、世界が成り立っている。世界もひとつの音色だ。

スネークは特別大きな音のする鐘を持っていたけれど、彼だけじゃない、あらゆる人の鐘が、響きあって、世界は鳴り続けている。

その音色は、誰のためのものでもない、そう言う人もいるだろう。
でもそれと同時に、あらゆる誰かのためのもの、でもあるんだ。
それは、そう、神様の奏でる音色。


すべての人のための音。






















END


結婚式話の3話目、完結です。
時系列的には「幸福の記憶」以降「唯一の贈り物」以前の、冬~冬の間の短い夏のお話の印象です。
その後、全部の後に「ケ・セラ・セラ」で、私の木星コンビの歴史はひとまず終わりを迎えています。
あとは「へびたま」のMGR時代、スネークさんが木刀になって帰ってきたよ!な妄想に続いちゃっておりますけども(笑)

正直アラスカ隠居生活を考え始めた当初は、期限が半年とかあまり考えてなかった適当時代なので、冬~冬までスネークさんの寿命はもったのか、とか疑問ですが、アラスカは夏がすごく短くてすぐ冬になるそうなので、ギリギリいけているといいなぁ、とそんな気持ちで。

むしろちょっぴり寿命延びててくれていいんですのよ!ね!ドルビンにもらった新たなフォックスダイで起きた変異とかそういうので、体の細胞にも影響があってくれていいよ!

今回は1本の小説を3分割して文字数もマチマチでしたが、携帯で打ってた頃よりは多分長かったと思います。それぞれ。
それでねブローンネクさんの話とか楽しかったです~。
ただねぇ、彼のウィルダーネス生活の丸太小屋は、足元が直地面なので、スネークさん宅には床があってほしいって願ってるの、私(笑)
メリルが転がり込んだって考えているので、彼女があまり気の毒な生活環境でないといいな~と思っていて。
その時点で多少自前リフォームしたとしても手狭ですし、犬は大量におるしで、何かと無理のある設定です。そもそも犬どうやって暮らしてたの、陸路はないし、熊に狙われたでしょ!
みたいな事は、以前の記事でもって語ってましたので、そちらをご覧ください~。

■スネークさんの「独りだけじゃないウィルダーネス」:ツイン・レイクス湖畔で生活!■
これ今読むと、どえらいテンションでどうしようかしら!でした!まぁご愛嬌でお願いします~(笑)

アラスカには実際に、国立公園に立派な家を手作りして、宿泊施設を営んでるご夫妻とかもいらっしゃるみたいなので、伝説の男スネークさんならばそれなりに立派なお家が建てられたはず!だったらいいな!
ちなみにそのご夫妻がいるのはレイク・クラークではない別の場所なので、ちゃんと陸路もあるし、という感じ。
同じ国立公園でも条件的には大分違った環境だったりするようです。

そんなこんなで究極の隠遁生活。
ぜひメリルとのお話も書きたいのですけどもねぇ、ネタはあれども(笑)
メリルとの生活と、それが終わるまでの経緯とか。
私的にはオタコンがスカウトにやってきて、しかもそれが真冬という印象でしたが、実際に迎えに来てるとしたら時期的に夏くらいのお話なんですよね、たぶん(笑)
雪ないよ!っていう!
シャドーもセスの印象が強すぎて、あそこのお二人はいつも雪まみれでお話しているイメージなのでした(笑)





 

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テーマ : 二次創作:小説    ジャンル : 小説・文学
Category: 短編小説【もくじ】 >  鐘の音(カネノネ)  

鐘の音(カネノネ)-すべての人のための音-2:MGS小説。木星コンビと雷電。ローズとの結婚式までinアラスカ

 
鐘の音(カネノネ)~すべての人のための音~【2】








当時はまだ所有していた軍用大型輸送機、ノーマッドで駆けつけ参列した、メリルの結婚式。
その日のことは、オタコンにとっても特別な思い出だった。
相棒のいない理由を知っていたのは自分だけで、もう今生の別れだと思っていた。
あの日。
幸せな風景が、裏腹にどんなに胸に痛かったか。
そして帰ってきたスネークを見つけて、どんなにか神に感謝したか。

喜びと悲痛は完全なる一体のものだ。
生涯の中で、あんな思いはもう二度としたくないと思っても、それは必ずやってくる。目の前の幸福と引き換えに。
だからこそ、こんなにも今が大切で、かけがえのないものだと分かる。

このことについて考えるたび、たくさんの気持ちが飛来した。だがそんな思いはおくびにも出さず、彼は呑気に、今日という日の話を口にする。

「他の人の結婚式の方をよっぽど頑張っちゃうなんてさ。彼女、素敵な奥さんになったよね」
「……あいつは昔からいい女だ」

ぼそりと呟かれ、相当渋い顔でもしているかと向き直ると、声の主は意外にも静かな顔つきで目を瞑っていた。
もう未練はない、そんな風に見える。
しかし諦め上手な彼の相棒は、本当は切ないくらいに情に厚い。オタコンはそれをよく知っていた。

「逃した魚は大きいとか…」
「思うか。俺には勿体ない女だ。昔も今も変わらん」

彼女との生活を諦め、アラスカを出た時と同じ台詞を口にして、スネークはだんまりの姿勢に入る。
こうなると、彼は手強い。
でも好きなんだよね、と、心の中で呟いくと、オタコンはサニーに手振りして、彼の隣に座らせた。
誰のものになるとか、そういう次元ではなく、スネークは彼女をとても好きだ。気にかけている。
だから、何となく納得がいかないままだった。もしまだ彼が若ければ、もしかしたら。
自分の素晴らしい相棒は、その彼の素晴らしさに見合った人生を送れたんじゃないかと、そう思ってしまう。

目の前のソファーには、一見だらしなく座った祖父に、孫の少女が寄り添った光景がある。
実際には血の繋がりも何もない、あるのは過ごした時間だけ。それでも、確かに絆は存在した。
そう思っているのは一人だけではない。小さな子供の温かな体温に寄りかかられ、白い睫毛に縁取られた瞳が、諦めたように開く。
放っておいてくれの合図は失敗に終わったと悟って。

スネークが貝になるのをやめると、オタコンは話を続けた。

「でも僕は思うんだ。アキバにだって、彼女は勿体ない女性じゃなかったかな?どう思う?」
「…メリルが選んだ相手だからな。他人の決める事じゃない」
「君だって彼女が選んだ男性だったんだよ。忘れたのかい?」

大袈裟に首を振る様子に、ソファーの老人は胡散臭そうな視線を向ける。

「何が言いたい」
「うーん、こういう決断て早い者勝ちなんじゃないのかな、と思って」
「お前…物事には時期ってもんがあるだろう」
「あーはいはい、そうだった。君の選択はいつでも正しいよ」

呆れたように言われ、オタコンはとぼけた顔をして、サニーを挟んでソファーに座った。
たとえ過去の事実がどうであろうと、今のメリルは人妻だ。その事実は変わりようがない、それは分かっている。
でも本当は、スネークにだってメリルを幸せにできたんじゃないか、彼女なら、この伝説の英雄とだって、幸せを掴めたんじゃないだろうか、そんな考えはぬぐえない。そしてスネーク自身も、心の底ではそれを望んでいたんじゃないだろうかと。
彼女なら、自分が彼といられるように、何があっても一緒にいてくれただろうに。
声にならない考えは、胸に溜まった空気と共に、ため息になって消えた。
それを見たスネークが、面倒そうに口を開く。

「メリルはああ見えて、繊細で女らしいところもある。アキバはその辺を心得てるからな」
「へえ、思ったよりよく見てるもんだね」
「……」

話の内容よりもむしろ、会話が終わらなかった事に驚いて、オタコンは意外そうな声を出した。
普段ならば自分が折れて、そこで終わるのが通例のはずだ。
すると心外だと言わんばかりに横目に睨まれる。

「だって意外だろ?君が他人の心情について主観的な発言をするなんてさ」
「どこかの破壊的な観察眼の持ち主より、多少マシかもしれんと思っただけだ」
「酷いなぁ、僕だってこれでも成長したんだよ」
「それなら観察する時系列も調整したらどうだ」

表向き意地の悪そうな声で投げ出される言葉は、過去に拘っているのが当人ではない事を指摘していた。
何とはなしそれで、余分な事を考えていたんだと、気付かされる。
スネークの気持ちを慮るなら、過去ではなく今の気持ちを尊重するべきだ。いくら昔の親友を気遣ったところで、何も変わりはしない。

「そうだった。君は正しく事実しか述べないんだったね」
「皮肉を言える程度には成長したらしいな」
「そうとも、至上稀に見る皮肉屋が近くにいたおかげだ」

いかにも嫌そうな顔を作って見せると、それが気に入ったのか、スネークは小馬鹿にしたように片方の眉を持ち上げた。
どうやら少しは楽しんだらしいと分かって、オタコンも眉を下げて笑う。
間に挟まって大人しく成り行きを見守っていたサニーも、落とし所に満足したのか、目を瞑って笑顔になった。

大切な女性を誰が幸せにするとか、そういう次元でもないのだ、きっと。
この伝説の男にとっては。

「彼女、幸せになってよかったよ。君の願いだったろ」
「…ああ」

ソファーの正面にある窓からは、正面に湖が、ガラス一杯に広がってよく見える。
湖面に陽の光が輝いて揺れる様は、天国の入り口のように美しい。
先週近くまで雪が降っていたのに、急激に夏がやってきていた。一年の内でもこの時期は、時間の流れ方が違うようだ。

世界は動いていて、過去は思い出になる。それは全て祝福されていて、間違いなど一つもなかったかのように感じられた。
犯した過ちも、全部が必要なことだったのだ、そんな気になる。

「雷電もさ、そうだし。君が願えば誰だって幸せになるよ。だから安心だ」

そう言われ、スネークが脇に目をやると、寄り添ったサニーとその向こうで相棒が、満足げな顔で笑っている。
つられて彼も、うっすらと口髭の端を持ち上げた。

ここにも一つ、叶った願いがあるようで。




男達の足音がポーチから家の中に入ってくると、キッチンの方からメリルの隊長らしい声が聞こえ、メイ・リンも二階から下りてきたようだ。
お次は料理全般の準備が始まるらしい。
リビングでは、ソファーの真ん中に乗っかっていた少女が、軽やかに絨毯に跳ね、くるりと振り返った。

「ハル兄さん、手伝ってくるね」
「うん、エプロンするんだよ」
「はーい」

可愛らしい返事でサニーが部屋を出ていくと、入れ替わりに雷電が、廊下を振り返りながら入ってくる。
外での作業の間脱いでいたのだろう、青みがかった銀色のフロックコートを羽織り直すと、それが白髪に近い銀髪にもよく似合っていた。

「可愛いな」
「そうだろ?会場のセッティングご苦労様。随分本格的だね。あのアーチとか」
「ああ、輸送の重量さえクリアすれば、後は俺が運べたから。…大袈裟な事になってすまない」
「いいんだよ。メリルが張り切ってくれてるし、ヘリだってキャンベルの口利きだしね」

サニーを誉められるたびに、オタコンははにかんで上機嫌だ。
荷物は全て軍の輸送ヘリで運び、湖かもしくは木々の切れ目の陸地に降ろしてもらっていた。
雷電と家族は水上飛行機でやってきて、機体は水辺に接岸させてある。
彼が今日の主役ではあるが、未だにスネークの前では気後れするらしく、どことなく所在なさげな雰囲気だった。

「…押し掛けて、迷惑じゃなかったか?」
「いいんだって、アラスカなんかに引っ込んだのこっちだし。ねぇ?」
「……まぁ気にするな」

実際には、この場所に住もうというのはオタコンの案で、スネークは最後まで反対していた。
押し切られ、連れて来られた形で過去の地に移り住み、しかも住居は大改装され、面影もない。
そんなもろもろの経緯も含め、当人の返事も自然と不機嫌なものになる。
それを取り繕うように、隣では相棒がフォローを入れた。

「君が結婚して嬉しいって」
「うるさい」
「嬉しいくせに」

ソファーの端と端で始まりそうな、お遊びの議論の空気を察知し、雷電は意を決して二人の間に腰を下ろした。
加減して座っても、サイボーグのボディがスプリングに沈むと、両脇の体が小さく跳ねる。
驚いた両名が目を丸くして、間の男をまじまじと見つめた。
彼らの意見の応酬は、険悪に見えたとしても実際はそうでもないが、一度始まると長かった。
以前、行動を共にしていた頃には、ここの言い合いに散々付き合わされたものだ。当時は見ているしかなかったが、今は違う。
雷電は意を決して、両手を膝につき、深刻極まりない顔付きで前を見据え、今まで言いたかった一言を口に出した。

「………ありがとう。二人とも」
「い、いやいいんだってば」
「そうだ、お前はよくやった」

面食らった返事をよこす左右の二人と、順番に顔を見合わせ、彼はふと、息をついて笑みを漏らした。
こんな簡単な事が、今までできずにいた。そんな自分が可笑しかった。
それから多分、嬉しくて。

「あんた達に世話になれて、俺は幸運だった」

立ち上がり、体を反転させ向き直ると、改めて正面からソファーの恩人達を見つめる。
両手を差し出すと、それを片方ずつ握ってもらえ、握手をしてもらえた。

「ありがとう」

ずっと言いたかった、色々な想いを込めて。
しかし別の様々な想いがそれを邪魔して、本当の意味で、この言葉を述べられた事がなかった。
自分の境遇や、羨ましさ、妬む気持ちや頼る気持ち、色々なものがわだかまっていた。
自らを引き合いに出している間は、素直な心でありがたく感じるのは難しかった。
やっと、余分なものを捨て、あるいは抱えたまま、感謝することができる。

静かな満たされた眼差しが、そこにはあった。



男達が無言で手を握りあっていると、遠くからエンジン音が近付いてくる。
握手が解かれると、雷電は何かを誤魔化すように窓に近付いた。
セスナらしき機影が湖に向かって降りてくるのが見え、視界の倍率を上げると、乗っている人間が確認できた。

「キャンベルだ」
「お、最後の恩人のお出ましだね」
「大佐か」

ソファーの二人も立ち上がり、スネークは一番古い友人を迎えに、いそいそと玄関に向かう。
その様子を見た彼の相棒が、雷電にそっと耳打ちした。

「今じゃ一番歳が近いもんだから」
「ああ…」

相手が微かに笑ったのを見て満足すると、オタコンは自分も部屋を出ようとし、思い出したように向き直る。

「にしても、今のそれ日常生活用のボディだろ。なのに相当パワーが出るんだ?」
「そうだな。車くらいなら持ち上がる。ただし作戦用はこの比じゃない」

説明を聞いて、それならアーチの設置なんて楽勝だろうと納得していると、雷電もドアに向かって歩き出した。
並んで廊下に出て、話しながら玄関に向かう。

「なんか凄そうだね。近頃サイバネティック関連は、こぞって民間が参入し出したらしいし。君にも研究用にオファーが来るだろ」
「ああ。2、3箇所受けたかな。まだ全身をサイボーグにする例はまずないとかで、かなり稼がせてもらったよ」
「そうかぁ。それって関連法案が可決されたら、一気に普及が始まるだろうね」
「だろうな。なぜだ」

ずり落ちてくる眼鏡を押し上げながら興味津々で聞いていると、隣を歩く銀髪の青年は訝しげな表情を見せた。

「うん、いや。肉体の問題だけなら、そういう選択肢もまあ、あるだろ。視野に入れてもいいし」
「…スネークは、そんなに悪いのか?」

要するに、脳意外は人工物にするという選択肢を考えなければならないほど、肉体に問題が出てきているのだろうか。
玄関の手前で立ち止まり、思わず口許を歪める雷電に、オタコンは慌てて両手を振る。

「いやいや、どこか悪いとかじゃなく、老衰だから。歳のわりにかなり元気な方だと思うよ」
「ならいいが…」
「スネークは興味ないみたいなんだ。でも万が一気が変わるかもしれないし、念のためさ」
「……」

明るく話しながら外に出る博士の後ろ姿を追いかけ、サイボーグの肉体を持った青年も、玄関を出た。
外は眩しく、一瞬光の当たる部分が白飛びするが、すぐに画像に補正が入り、全てがよく見えるようになる。
初めはこの見える感覚に慣れず、よく頭痛を起こしたものだ。隅々まで鮮明という事が、人間の視界にはない。

確かにこんな肉体になってまで、生きる必要は無いのかもしれない。ボディを手に入れたとしても、脳の細胞にもいずれ限界がくるだろう。
人工の肉体は、あくまで入れ物に過ぎない。全ての情報の詰まった脳と、精神、魂というものの。自然の理に逆らってまで、留まらせておかねばならないとは限らない。
そうは思う。
しかし今、ここにいる自分達は、残される側の人間だ。
何とかして、この世に繋ぎ止めておきたいと願う気持ちは、やはり消せない。
同じように何とかしたいと思っているはずのスネークの相棒はしかし、半ば放り出したかのように、深刻さの欠片もない声で言った。

「こればっかりはね、あとは祈るのみだ」
「祈るって、…神にか?」
「そうだよ」

あまりにあっけらかんと告げられ、思わずまじまじと見つめてしまう。

このオタコンと呼ばれる男は、科学者にしては非科学的な話をよくする方だった。
非科学的と言われるものこそ、これから解明されていく現実だと、博士は思っているらしい。
分からない事にこそ、何かの可能性や思いもよらない発見がある。そういう事なのかもしれない。

彼の中に神はいるんだろうか。だとしても、その曖昧なものに、スネークの運命を任せるのだろうか。

「でも神は…何かしてくれる訳でもないだろう」
「ん?んー、君はスネークと同じ事言うんだな」

一番近くで何かしらできる人間がそれでいいのかと、やや声を低くする雷電の横で、オタコンは困ったように小さく笑って、セスナのフロートが水面をとらえる様を見ていた。
日差しに水しぶきがきらめき、水面を滑る機体が近付いてくる。
そしてその手前に、スネークの背中があった。
華奢になった背中だ。

長年ずっと頼もしく、オタコンも雷電も、彼のその、広い背中を見てきた。
どんな苦境に陥っても、仲間には後ろ姿しか見せないような男だった。
一緒にいれば、訳もなく安心でき、そしてどんな瞬間にも、たとえ膝を屈しても、最後まで諦める事をしない、それがソリッド・スネーク、伝説の英雄だった。

今ではもう、見詰める先にあるのは、去らんとする者の後ろ姿だ。
思えば彼だけが、特別遠くまで来てしまった。
そして行ってしまう。

「何かするのは僕達さ。例えば願ったり、祈ったりね。それが叶ったり、叶わなかったりする」
「……」

遠くにある背中に、まるで話しかけるような博士を見て、雷電は彼が、自分と同じ思いだと気付いた。
引き留めたい気持ちも、何かしたい気持ちも、する気もある。
近くにいる分、自分より余程、その思いは強いのかもしれない。
しかし彼は、それをやんわりと隠し、誰にも、スネークにも、悟られないようにしていた。

本当は、どんな事でもしてしまいたい。
しかしそれをしてしまったら、大切な何かを、踏みにじる事になるのかもしれない。
右を向いても、左に行っても後悔が待っている。
ならば、何を優先すべきなのか。










つづく






お話の2話目です。
昨日続けてアップできなかったのでお昼間ですが更新で。
木星コンビのやり取りなどに大幅?加筆がございます。
そこはその、わたくしの書くものなので、はい(笑)


 

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テーマ : 二次創作:小説    ジャンル : 小説・文学
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◆プロフィール

輝思回生

Author:輝思回生
MG、特にMGSシリーズをこよなく愛しています。
こそこそしたり、遠くから眠らせたり、後ろから忍び寄って脅してみたり、なんて私にぴったりなゲームなんだ!

とにかくオタコンびいきです。
オタコンならば何でもいいという!(笑)
そしてスネークおじいちゃんのお髭愛も!

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